監督の謙虚な情熱 力に−若手のホープ福士さん
「飛ぶ鳥を落とす勢い」とは、こういうことを指すのでしょう。20歳の福士加代子さん(ワコール)が欧州を舞台に、陸上の女子長距離種目の日本記録をどんどん塗り替えています。
先日はベルギー国際で五千メートルを日本女子選手初の14分台となる14分55秒21で走り抜け、福士さん自身がわずか8日前にローマで出した日本記録をあっさりと更新しました。青森の五所川原工高を卒業し、ことしでワコール入社3年目。若きホープは将来の「マラソン日本」をぐいぐいとリードしていきそうです。
さて、彼女の後ろには、永山忠幸監督(42)の存在があります。彼はなかなか表に出たがらない、腰の低い人です。
欧州から帰ってきたばかりの監督へ、お祝いの電話を入れたときもそうでした。「渋井(陽子)さんが先に一万メートルで30分台の日本記録をつくってくれたからですよ」。福士さんについては「まだまだレースが下手。コースの位置取りで無駄なエネルギーを使い過ぎている」と、次の課題を早くも挙げていました。
福士さんが誰よりも信頼を寄せる永山監督。彼は大学まで陸上の長距離選手でした。卒業後はスポーツメーカーに勤務しました。そのときに海外の一流選手たちと接し、そのトレーニングプランのノウハウが今に生かされているようですが、「僕は指導の実績がないんで、他のコーチや先生方にいつも教えていただいています」と監督はいつもの調子で話します。
ところで、福士さんが大切にしている言葉があります。高校時代の安田信昭陸上部監督から言われた「苦しいときに笑える選手になろう」です。永山監督も彼女のそんな気持ちをしっかりと受け止め、「レース中の苦しいときに(人の背中を借りるのではなく)前に出られる選手になろうね」と話すのです。
福士さんがすくすくと伸びているのは、こんな若い監督の「一緒に成長したい」と思う謙虚な情熱が力になっているのだと思わずにはいられません。
(共同通信/2002年8月2日配信)
|