強い「個」求め中国合宿
わたしは今、秋にシカゴ・マラソンを走る渋井陽子さんを取材に中国の昆明に来ています。渋井さんら三井住友海上所属3選手のチームが合宿する「航天療養院」は、市街地から西へ車で約30分走ったところ。
その風景は、のんびり、そしてとってもエネルギッシュ。広い道は、ロバがゆっくりと荷を引く一方で、野菜が入ったかごを乗せた自転車が、自動車の間を縫うようにして、ひっきりなしに行き交っています。
朝6時から朝練習。虫が鳴く暗闇の中、渋井さん、土佐礼子さん、大山美樹さんが起き抜けの顔で現れ、おもむろにストレッチを開始。朝練習はフリーというのが、一昨年から全日本実業団対抗女子駅伝を連覇している三井住友海上の特徴です。
この日、選手が走っている間、鈴木監督と“おしゃべりウオーク”を楽しみました。約3週間の昆明合宿を年に3度行うことについて「なぜ昆明なのですか」と尋ねると、監督はこう答えました。「ここには昔の日本を思い出すような懐かしさがあるからですよ。そして“強さ”もある」
あらためて話をうかがいながら、監督は「こ」の付く言葉を多く発する人だなあと感じました。「個人」「個性」「こだわり」「孤独」−。例えば、こんなふうに話しています。「駅伝はチームワークだというけど、つまりは個人が個性を出し切ってこそチーム力になるんですよ」
わたしは5日間、昆明に滞在して、監督が昆明を好む理由が分かったような気がします。昆明は、道行く人々が欧米人のように愛想良くニコッと笑うことがないのです。目が合うと戦っているような気持ちになります。もちろん、親しくなると、とってもフレンドリーですが…。道路を走る自転車や車は「われ先に」「譲ったら負け」みたいなところがあるのです。
これは日本の高度成長期時代のどん欲なパワーに似ているのではないでしょうか。だから「個」の強さを大切にする監督が自然ととけ込める環境では、と思うのです。
(共同通信/2002年8月9日配信)
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