実績による自立目指せ−日本スポーツ界の課題−
横浜国際女子駅伝で来日したロシアのワレリー・クリチェンコ監督に、ロシアのスポーツ界についてお話を伺いました。
ロシアはこの大会で一昨年に優勝、昨年は3位とパワーアップ。スポーツのしやすい環境が整ってきたのでしょうか。「プーチン大統領がスポーツに理解を示してくれることがありがたいです」と監督。そういえば、大統領は柔道の黒帯です。
「彼は、スポーツ(のクリーンなイメージ)が国の経済、産業を支える中心的なイデオロギーだと言っている。2012年の五輪はモスクワ誘致も考えていますよ」。これは初耳。隣国の中国が08年北京五輪へ向け、昨年11月にマラソンのナショナルチームを創設するなど国を挙げて動きだしているのも、いい刺激になっているようです。
ただ、ロシアでは国が選手をサポートするシステムがなくなりました。「選手は自らメーカーと契約したり、賞金レースに参加することで生活している。男子の長距離選手の中には、競技を続けるために厳しい生活をしている人も多い」と実情を話してくれました。
話は日本にも及び、「日本の女子マラソンの強さは『道徳的』なところにある」と。面白い見方です。日本が実業団という枠の中で競技をしていることで、自然に指導者に従う空気ができる。それが良いと言うのです。
わたしが、このような伝統的スポーツ社会の問題は選手の「自立」を妨げることになると言うと、監督は「日本なりのいいところをつかんで、なおかつ”キャリアによる自立”を選手自身が目指せばいいのですよ」。
既にキャリアによる自立は、有森裕子さんや高橋尚子さんが成功しています。わたしは、日本の恵まれた環境は、選手に「安心」という支えのエネルギーを与えてくれると思います。それを大いに生かし、もっとキャリアにつなげていく強さが大切! あらためて日本での「プロ化」について考えさせられました。
(共同通信/2003年2月28日配信)
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