心の世界を切り開く「夢伝」
毎年、みどりの日に皇居周辺で開催される「夢伝(ゆめでん)」が、ことしで7回目を迎えました。大会本部長はわたしです。今回の参加者は約350人。晴天に恵まれ、初夏の風が緑の中をすり抜けていきました。
夢伝は障害者が主役の大会です。コースは桜田門発着の5キロ。午前10時から車いす、電動車いす、ウオーキング、ランニングの順でスタートし、それぞれ「自分なりの5キロ」を楽しみます。
山梨県塩山市から初参加した25歳の男性は、車いすをこぎ、手を血まみれにしてゴール。包帯を巻いてもらいながら「長かったあ」。すがすがしい表情が印象的でした。皇居の周りは三宅坂など坂があるので、車いすの人にとっては大変タフなコースなのです。
東京・東長崎から参加の清水ゆき江さんは91歳。全盲で、昨年から24時間、酸素療法を受けての生活。車いすを押してもらいながらの参加です。「去年、三宅坂のところを通ったら菜の花がとてもいい香りだったんですよ」。ゆき江さんはその香りを感じたい一心で、この日に向けて体調管理に努めてきたそうです。
こんな参加者をサポートしてくれたのは、東海大教授の宇佐美彰朗さんが代表を務める日本スポーツボランティア・アソシエーション(NSVA)の方々、26人。盲人参加者の伴走を務めたほか、コース上では、まるでとりでのように守ってくれました。自閉症の子どもたちは、ときに道路に飛び出してしまう危険があるのです。
宇佐美さんは閉会式のあいさつで「わたしたちは障害者からいろいろ学ばせてもらってます。こういう機会を与えてくださり、ありがとう」―。マラソン日本代表として、1968年から3大会連続で五輪出場した宇佐美さん。今は、人の心の世界を切り開く活動に情熱を傾けています。
「いい風」が吹いている夢伝に、皆さんもあたりに来てください。
(共同通信/2003年5月9日配信)
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