「願わばかなう」−笑顔が戻った福士さん
6月の大安の日。陸上の日本選手権女子一万メートルで優勝した福士加代子さん(ワコール)に笑顔が戻りました。
永山忠幸監督(42)は「正直、(彼女が)ギプスをしているころは、あの笑顔がまた戻るんだろうか、と不安でした」と話し、涙をこらえることができませんでした。
福士さんは昨年12月、全日本実業団対抗女子駅伝でトップ争いをする中、隣を走る選手と接触、転倒。レース後、左ひざ靭帯(じんたい)を損傷していることがわかり、それから約3カ月間、ギプスの生活を余儀なくされました。それまでが負け知らずの日本トップ長距離ランナーだっただけに、このアクシデントは本人、監督、チームスタッフを絶望に追い込んだのです。
「だんだん『逃げない』『あきらめない』が(スタッフ)全員の心の合言葉になりました。このまま終わったら、福士よりも彼女を転倒させた選手が一生悲しむことになるでしょう」と監督。
ギプスをしている間のトレーニングは、片足で体を支えられるようにと、右足の徹底強化。長い歩きと、ウエートトレーニングによるものでした。ギプスがとれた日、「左足がか細くなってて『アレッ』と思いました」と、福士さんは明るく笑いますが、当然ながら左右の足のバランスは悪く、「走ってみると体が宙に浮いているよう」(福士)だったようです。
今度は、トレーナーがち密な左足強化メニューをつくり皆でサポート。それから2カ月後の日本選手権。彼女の左ひざはまだ完全屈曲ができず、太ももの大きさも違っていました。
これは奇跡的な「チームの勝利」と言えるでしょう。そして、何より「願わばかなう」を信条とする福士さんの精神の充実。笑顔がますます大きくなった福士さんの世界陸上が楽しみです!
(共同通信/2003年6月25日配信)
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