後追って学ぶ「美しさ」
巣立ったばかりのウグイスが、「ホーホケキョ」と鳴けずに、「ホケホケ」と練習しているのを聞いたことはありませんか?
江戸時代には、飼育しているウグイスに鳴き方を学ばせる、「めだかの学校」ならぬ「鳥の学校」が趣味人の間ではやったという。鳥のさえずりの美しさを競う「鳴き合わせ」という遊びに端を発する。
ヒナのうちに、美声が評判の鳥のもとへけいこに出す。つまりボイストレーナーのもとで合宿を行うわけだ。
合宿中は先生の声の後についてさえずる。美しく鳴く能力は生まれながらではなく、習うもの、というところが面白い。
この話を聞いて思い出したのが、陸上競技の実業団チーム、天満屋だ。ここ数年、ピンクのユニホームが駅伝やマラソンのトップ集団にいる。
朝の練習は全員参加。武富豊監督は新人部員に「フォームのきれいな先輩の後ろを走りなさい」と指導する。最もフォームのきれいな先輩を先頭に、その次にきれいな先輩、そして後輩たちが続く。走りのリズムや呼吸、身のこなしなどを先輩の背中から学び取るのだ。
フォームの美しさで定評があったシドニー五輪代表の山口衛里選手の時代から、天満屋が毎年のように世界レベルの選手を出しているのは、きっと、この「背中」のお陰。無駄のない美しいフォームの継承が、記録の進化を支えている。
(朝日新聞/2003年12月6日掲載)
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