息子のため、北京へ第一歩
2005年大阪国際女子マラソンの選手村となったホテル内は、たった1人のかわいい男の子の存在で花が咲いたようににぎやかでした。リディア・シモンさん(ルーマニア)の2歳の息子、クリスティンちゃんです。
動き回るのが大好きな彼を、練習から帰る選手や監督が自分の肩に乗せたり、抱いてクルクル回したり…。和やかな表情で遊ばせるのでした。ホテルの玄関前には大きな雪だるまが2つ。毎年、兵庫県温泉町の方々が雪を運んでつくってくださるものです。温泉町の人が木の箱をクリスティンちゃんに渡し、一緒に雪を詰めてひっくり返すと小さな雪だるまの出来上がり。クリスティンちゃんは大喜びでした。
リディア・シモンさんは日本人から愛されています。また彼女も、日本が好きです。「北京五輪でメダルを取りたい」と彼女。その第一歩のスタートに大阪を選びました。「ぼくを産んだからママが弱くなった、と彼が大きくなったときに思わせたくない」と彼女が話すのには理由があります。クリスティンちゃんが8ヶ月になったころ、リディアさんは彼を抱いて自宅の2階から下りようとして足を滑らせてしまったのです。彼にけがをさせないためにとっさに反応し、股(こ)関節と腰を骨折。「再び走ることは不可能かもしれない」とまでささやかれたのです。そして、短い準備期間で臨んだアテネ五輪はレースの途中で棄権しました。
さて北京へのスタートとなった大阪国際。5位でゴールインしたリディアさんは「帰ってきたわ」と、クリスティンちゃんにキスをしました。まだ2歳の彼はポカーンとした表情でママを迎えましたが、北京のゴールでは、とっておきの言葉でママを喜ばせることでしょう。
(共同通信/2005年2月2日配信)
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