世界に一つの自分のレース
難波の街に小さき赤のさざんかが咲いたような一日。1月29日、2006大阪国際女子マラソンが開催されました。優勝のキャサリン・ヌデレバ選手(世界歴代2位の記録保持者)に続いて長居陸上競技場に帰ってきたのは、マラソン23回目の小幡佳代子選手(34歳)。たいへん息の長い選手です。今まで日本の大会では常に4、5番をキープ。安定した力を見せていましたが、トップ(日本人)でゴールするのは今回が初めて。後輩思いの優しい彼女が、昨年は腎臓を悪くし練習中に血尿が出るほど体調を崩しました。
この日、彼女が25kmでトップに立ち、後ろから追い上げるヌデレバさんから逃げようと泣きそうな顔になるのを、どれだけの人が「逃げて、逃げてー」と沿道からテレビの画面から応援したことでしょう。沿道の声は第1移動車の私の耳にも届いてきました。
大阪国際女子マラソンはエンタテインメント性を加味するテレビ中継では先駆け的な存在。選手が大阪城内を走る時、テレビではアルフィーの大会テーマ曲“ONE”が流れました。そこにトップで入ってきた小幡さん。“細く曲がりくねった道で、君は何度もつまづきながら、理想と現実、挫折を乗り越え、自分というスタートラインを見つけた”(作詞・高見沢俊彦さん)。まさに小幡さんの競技人生を語っているようでした。
経験という面ではヌデレバさんも共通しています。前半は400mほどトップ集団から離されましたが、決して焦ることなく落ち着いていました。二人に共通しているのは“自分のレース”が確立しているということ。まさに“ONE”、世界にたった一つの自分のレースです。小幡さんは「私は将来、ヌデレバさんやシモンさんのように出産してからも活躍できるママさんランナーになりたいです」と話します。小幡さんのこれからレースに人生の味わいが増していきそうです。
(共同通信/2006年1月30日配信)
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