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おしゃべり散歩道2006

選手支える合宿地

 雪道を走る車窓から赤い屋根や羊舎の懐かしい街並みが見えてきました。北海道・士別市。私は選手だった頃、毎夏のようにここで合宿を行い、長い時は1ヶ月間旅館に泊まり士別のあらゆる道を走りました。1月末、そんな思い出深い士別から講演会のお招きを受け、15年ぶりに伺ったのです。当時は土だった400mのグラウンドはゴムに変わっていました。また木片が敷き詰められた一周2qのクロスカントリーコースも再整備。でも合宿で訪れる選手達をもてなしてくれる地元の方々の優しさは変わりません。今も大学や実業団、年間60チームが滞在するそうです。
 講演会が始まり、会場を見渡すと懐かしい顔ばかり。当時教育長だった田苅子さんは市長になられ、旅館の支配人の息子さんや従業員のみなさん。陸上選手を目指す小学生だった金井ひろみさんは教員になっていました。夏の夜風を受けながら白樺ロッヂでジンギスカンを囲んだ日のことが思い出され涙がこみ上げ、講演の三分の一は思い出話になってしまったのです。
 士別は夏の合宿地として選手に大変人気があります。その理由に環境の良さがあります。日本のマラソンが強くなった理由の一つに山道を走るクロスカントリーに取り組んだことが挙げられますが、合宿地を選ぶ条件として、クロスカントリーのコースがあるかどうかは重要なのです。また、地域の受け入れ態勢の充実。選手が走りやすいようにクロスカントリーの急坂を直してくれたり、旅館の方々は選手達にバランスの良い美味しい物を食べさせようと、腕を振るってくれます。そして嬉しいことに、選手達のきつい練習の日を知っていて、それが終わるとバーベキュー会を開いてくれるのです。
 まるで街全体が大きな家族。日本の陸上競技を陰で支えているのは、合宿地の温かい“大きな家族”です。

(共同通信/2006年2月6日配信)

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