増田明美のホームページ ビデオメッセージへ各種お問い合わせへトップページへ

TOP > おしゃべり散歩道 > 2006年目次 > エッセイ第20回
プロフィール
おしゃべり散歩道
イベント情報
出演予定
執筆活動
リンク集

おしゃべり散歩道2006

“運・鈍・根”が大切

 毎年5月中旬に開かれる富士・箱根スポーツフェスタ。万緑の箱根が今年は深い霧に包まれ、芦ノ湖も富士山も見えず。暴雨風によるテントの倒壊や事故を心配して中止になりました。そしてせっかく箱根に来たランナー達のために、ゲストランナー瀬古利彦さんと私のトークショーが行われることになったのです。その知らせを聞いた瀬古さんは「一時間喋るんだったら5q走った方が楽だったな」と本音を言って関係者を笑わせました。私も若葉風の中を走れない残念さはありましたが、瀬古さんのトークの面白さは重々承知していたのでむしろ楽しみになったのです。
 会場の体育館には約500人のランナー達が。瀬古さんはまず、指導者の情熱の話を。瀬古さんの恩師、中村清さんは戦争経験者でした。「戦争は負けたら死ぬんだ。マラソンは負けても死なないから毎日死ぬ気でがんばれ」と日頃から激を飛ばされたそうです。また中村さんが選手達の前で砂を手にとり、これを食べたら世界一になれるならお前達は食べるか?俺は食べるぞ、と言ってバクバク食べるのを見て、「僕も食べようと思ったけど、やっぱり無理だった」と瀬古さん。「ところで、僕は五輪の結果が良くなかったけど、増田さんよりはマシだった、ちゃんとゴールしたからね」と。会場は大爆笑でした。監督としての経験から「金メダルを獲る選手は“うん・どん・こん”があるんだよね」。その意味を私が尋ねると、4年に一度の大会に自分のピークで臨める“運”、プレッシャーを感じない“鈍感さ”、そして4年間地道に練習を継続できる“根気”。この時は皆真剣に聞き入っていました。
 最後は会場からの質問です。「長距離を速く走るコツは何ですか」と小学6年生の女の子。瀬古さんは「コツなんかないよ、楽しく走ることだよ。走るの好きか?じゃあ速くなるよ」。終始笑いに包まれ、体育館内は五月晴れでした。

(共同通信/2006年5月22日配信)

次のエッセイを読む 【2006年の総合目次へ】 前のエッセイを読む


Copyright (C)2001-2021 Kiwaki-Office. All Rights Reserved.
サイト内の画像・文章等の転載・二次利用を禁じます。