北京へと向かう土佐さん
冬の雨が選手達の体から体温を奪いました。11月19日に開催された東京国際女子マラソン。レース前から土佐礼子さんと高橋尚子さんの一騎打ちが話題となりました。しかし当日は大粒の雨と冷たい風という最悪のコンディション。私は先頭集団の前を走る移動中継車に乗り解説しましたが、大きく開けた窓から入る空気の冷たさに手足がしびれ、後半は口元の感覚も無くなるほどでした。競技場内の救護室はゴール後全身痙攣を起こした選手達で溢れたのです。
そんな中、優勝した土佐さんは「体が固まりました」と唇を震わせながらもホッとした表情。記者会見では、高橋さんに後ろに付かれて圧力は感じなかったかという質問に、「沿道からの圧力のほうが強かったです。みんな“Qちゃん、Qちゃん”と・・・。たまに“土佐さん”という声がポツリ」と言って周りを笑わせました。高橋さんに後ろに付かれながらも“抜かれるかもしれない”という怖さ以上に、終始“逃げてやる”という気持ちで走っていたそうです。この強気が勝因。最初から最後まで先頭で自分の走りを貫き通した見事なレースは、大阪世界陸上、北京五輪へと進む第一歩になりました。
一方、3位と敗れた高橋さんは、土佐さんの後ろに付きながらも“いつスパートしようか”と考えていたそうです。ところが28q付近で急に足が痺れてきて動きにくくなったとのこと。レース1ヶ月前にふくらはぎを故障したことを明らかにしましたが、そこに寒さが加わったのでしょう。それでも「今日の走りを見て、私が引退すると囁く人もいるかもしれませんが、引退はありません。こんな風に山あり谷ありの競技人生のほうが楽しいと思います」とにっこり。これまで勝つのが当然と思われてきた高橋さん。北京五輪に向けて、これからはチャレンジャーとしてぶつかっていけるという清々しさが感じられました。
(共同通信/2006年11月20日配信)
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