心打たれた2人のレース
アラビア半島の小さな国、カタールのドーハで開かれたアジア大会。女子マラソンは中国の周春秀選手が最初からハイペースで独走し優勝。日本の嶋原清子さん(29歳)と小幡佳代子さん(35歳)は銀メダルと銅メダルに輝きました。私は現地で国際映像を見ながら解説をしましたが、これほど心を打たれたレースはそう多くはありません。ドーハ湾沿い南北片道五キロを折り返すコース。周さんから遅れた嶋原さんと小幡さんがゴール手前500mまで並走。最後に嶋原さんがスパートするまで、強い向かい風の中、お互いが後ろにつこうとせず並走する姿がいかにも二人らしいと思ったからです。また40q過ぎの最後の給水で、歩道側にいた嶋原さんが小幡さんの分まで給水のボトルを取ると、すぐ手渡しました。疲労困憊の中でも、人のことを考えられる嶋原さん。その想いを受けて一緒にゴールまで頑張りたいと思う小幡さん。
レースを終えたその夜、嶋原さんと小幡さん、それぞれの監督さんと食事をご一緒しました。並走の理由を尋ねると嶋原さんは「一緒に進んで行きたかった」と。「二人でメダルを取りたいと思った」と小幡さん。大変な努力家でチームメイトから尊敬されている二人。優しい思いやりの心に溢れていることも共通しています。
だから沿道で指示を出す監督さんたちも、「沿道から名前を呼べなかった。どっちにも頑張って欲しかったから、“頑張れ”しか言えなかった」と川越さん(嶋原さんの監督)。小幡さんの監督の長沼さんは「残念ながら決着を着けなきゃいけないけど、どっちが勝ってもいいと思った」と。
来夏の大阪世界陸上の選考レースにもなっているこのレースではお互いがライバルです。相手に勝つことだけを考えたら、もっと違った戦い方があったかもしれません。でもお互いを認め合い健闘する姿が、本当に美しいレースだったと思います。
(共同通信/2006年12月11日配信)
|