走り続ける弘山さん
「晴美さんに優勝のゴールテープを切らせたい」資生堂チームが長年描いてきた夢を実現させました。12月17日、第26回全日本実業団女子駅伝が行われた美濃路の空は、薄い雲の間から陽が射す穏やかさ。資生堂のアンカー、弘山晴美さんは両手を空に広げゴールに飛び込みました。チームメイトの目から涙、また涙。
資生堂チームはもちろん、他のチームの選手達からも尊敬されている弘山さん。それは長年女子陸上長距離界のトップを走り続ける実績はもちろん、人柄によるものです。いつも控えめでチームの中でも口数は多くはないようです。しかし、チームメイトが悩んだり苦しい時には必ず傍で言葉をかけてくれます。先日のドーハ・アジア大会で女子マラソン銀メダルに輝いた嶋原清子さんは、ゴール直後に「早く弘山さんに会いたいです」と涙を浮かべました。嶋原さんは2004年の東京国際女子マラソンで日本人トップで2位に入りながら、翌年の世界陸上ヘルシンキ大会に日本代表に選ばれませんでした。落胆する嶋原さんに弘山さんは「諦めちゃだめだよ」と肩を並べて走りました。決して自分が代表に選ばれなかったシドニー五輪のことを話すわけでもなく、嶋原さんの気持ちが晴れるまで一緒に隣を走ったのです。「前へ、前へ」弘山さんの足音、息遣いが嶋原さんにはそう言っているように聞こえました。
今年は、名古屋国際女子マラソン優勝の弘山さんに始まり、夏の北海道で吉田香織さん、東京では尾崎朱美さん、そしてアジア大会で嶋原清子さんと、資生堂の選手達は皆活躍しました。後輩たちはどんなに苦しいことがあっても、偉大な先輩の背中が語る歴史に勇気づけられ慰められ、頑張ってこれたのでしょう。
来年、大阪世界陸上最終日、女子マラソンの日は9月2日。弘山晴美さんの39歳の誕生日です。「ここまでは辞められませんね」と弘山さんは明るく話すのでした。
(共同通信/2006年12月18日配信)
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