坂口監督の言葉の力
亥年の初仕事は俳句から。元日、群馬・前橋で行われたニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)は毎年、選手達に俳句でエールを送ります。前日にゲストの黛まどかさんから「番組冒頭にお手本の句を読んでね」と言われ、私は紅白を観るのもそこそこに、俳句を考えました。そして当日、スタート地点の群馬県庁前は、尻焼温泉から運ばれたお湯で足湯に浸かる人々でいっぱい。そこで詠んだ句は、「沿道に 声の溢れて 冬ぬくし」。
レースが始まると更に沿道は声援でぬくもり、中国電力が五年振りに優勝しました。その様子を画面で観ながら、私は昨秋、監督の坂口泰さんと食事をした時の話を思い出していました。「一番苦労するのは勧誘です。本拠地が広島なので全国から選手を集めることは難しい」。良い条件を出して勧誘するチームもあるが、それが出来ないので熱意と誠意で訴えることしかできない、と話していたのです。
きっとそんな想いが選手の心に染み渡っているのでしょう。中国電力は油谷繁さん、尾方剛さんなど五輪や世界選手権に日本代表のマラソンランナーを多く輩出し、日本の長距離界をリードしています。この日も佐藤敦之さんが5区で7位でタスキを受け取り1位で渡すという激走。優勝の功労者となりました。今もっとも輝いているチームの魅力は何でしょう?
私は坂口さんの持つ言葉の力だと思います。実は佐藤さん、昨春体調が悪く練習に参加できないほどでした。真面目で常に「結果を出さなきゃ」と焦る佐藤さんに、監督は「その根拠は何か」と尋ねたそうです。佐藤さんはそれに答えながら、自分が結果を出さなきゃと思うこと自体が思い上がりで傲慢であることに気づきました。「大事なことは結果を出すことではなく、チャレンジしていくことだよ」という監督の言葉に涙を流したそうです。
今後、坂口さんの指導法が益々注目されることでしょう。
(共同通信/2007年1月5日配信)
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