素晴らしい3人の信頼関係
ボォー、ボォーと氷川丸の汽笛がスタートした選手達の背中を押すように温かく響いた横浜国際女子マラソン。薄曇りの空から光が射し込むすように黄色いユニフォーム姿で山下公園内のウイニングロードを駆け抜けたのは尾崎好美さん(第一生命)でした。残り3kmからの鋭いスパート。前半からハイペースを刻みながら、最後の2.195kmを7分15秒で走った瞬発力は世界でもトップクラスです。私は移動中継車から解説。35kmを過ぎ、先頭集団が中里麗美さん(ダイハツ)とバロスさん(ポルトガル)との3人になった頃から尾崎さんがスパートするタイミングをみている目線や位置取りの様子を注視していました。そして、残り3km地点で黄色いジャンパー姿を発見。山下佐知子監督のご主人の吉原智司さんが「仕掛けろー!」と大きな声を発しました。その直後、尾崎さんがぐっとスピードを上げ、先頭集団の2人を置き去りにしたのです。その時私は、山下監督から連絡を受けたご主人が声をかけたのかと思っていました。
ゴール後の記者会見。その疑問を投げかけると、「本当はラスト2kmで出ようと思っていましたが、旦那さんの声を聞いて早めにスパートしました」と尾崎さん。隣で「私は何も指示していませんよ」と山下監督は笑うのでした。私は3人の信頼関係の素晴らしさを感じました。吉原さんは過去に数年間、第一生命陸上部のマネージャーを務めていた大変有能な方。山下監督が彼と結婚した時に「私の監督業を一番理解してサポートしてくれる人」と言っていたのを思い出します。ロンドン五輪は尾崎さんにとっても山下監督にとっても夢実現の場。その第一歩を踏み出しました。
(共同通信/2011年2月21日配信)
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