川内さんの激走
これまで雨天が多かった東京マラソンは、抽選に外れたランナー達の嫉妬の雨という声もありました。ところが5回目の今回は春麗らかなランニング日和。皇居や雷門を通過する市民ランナー達も春風駘蕩の面持ちでした。
印象深かったのは、日本人トップの3位でゴールした川内優輝さん(埼玉陸協)の力走です。走る姿にもゴールして倒れ込む姿にも土臭い香りがしました。「このレースで死んでもいいという気持ちで走っている」という川内さんの一途な気持ちが走りにも表れていると感じます。私も選手の頃、よく恩師に「死ぬ気で走ってもそう簡単に死なないから」と言われていましたが、そこまで自分を追い込む走りは出来ませんでした。
川内さんの走りは、技術的には決してスマートな走りとは言えませんが、最近注目される選手達に川内さんのようなタイプが多いと感じます。例えば箱根駅伝の山登りで有名な柏原竜二さん(東洋大学)や、駅伝やハーフマラソンで頭角を現している宇賀地強さん(コニカミノルタ)。彼らは荒削りという表現がしっくりくるようなランニングフォームです。共通するのは技術を超えた闘志がむき出しになり、独特のフォームを作っているということ。
走る川内さんの心に漲るものは、「走ることが純粋に好き」という気持ちではないかと思います。昨年この大会で4位に入り得た100万円の賞金は少しも生活費に充てることなく、全て遠征費に使ったそうです。レース後の記者会見では「走る度に自己記録を更新出来ることが嬉しいんです」と少年のような表情で語りました。群れから離れ一人咲いた菜の花が、陸上界を明るくしてくれそうです。
(共同通信/2011年2月28日配信)
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