母親の存在 選手支える
夕暮れ時の虫の音に、つい散歩の足も延びてしまいます。韓国・テグ世界陸上選手権が閉幕して一週間。今も私の胸に涼やかな風のように残る出来事があります。それは男子マラソンの川内優輝さん(24)と女子長距離の絹川愛さん(22)のお母さんの存在です。
川内さんは小学生の頃、毎日自宅周辺を約1200mお母さんと全力で走っていました。それが陸上競技の原点だと話します。「高学年になると、母は追いつかなくなったので自転車で伴走してくれました」と川内さん。走ることが好きな息子を母は一緒に走ることで応援したようです。そしてお母さんはテグにも応援にいらっしゃり、レース前「ゴールさえしてくれればそれで十分です」と緊張しながら優輝さんを見守るのでした。そして女子1万mに出場した絹川さん。レース中、過度の緊張から脱水症状を起こしました。ゴール後倒れ込み、医師もコーチの渡辺さんも「2日後の5000m予選は欠場しよう」と。ところが絹川さんはその日大泣きしながらお母さんに胸の内を吐き出したのです。話しているうちに「自分が欠場するのは、日本代表になれなかった人達に申し訳ない」という思いに至ったそうです。そして5000m予選のスタートラインに立つことを決断。その予選では見事な走りをし、あと一人というところで決勝進出の望みは叶いませんでしたが本人は「悔しいけど次につながります」と明るく話すのでした。
中学生の頃、自宅の前で毎晩練習する私の足元を懐中電灯で明るく照らしてくれた母を思い出しました。結果がどうあれ、いつも一点の曇りなく味方となり応援してくれる家族、優しく見守る母親の存在が選手を支えているのだなと感じます。
(共同通信/2011年9月12日配信)
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