被災者を励ましたい
みなと横浜。汽笛が祝福しているように響く中、日本人トップでゴールに飛び込んだのは那須川瑞穂さん(32歳)でした。11月18日、横浜国際女子マラソンで那須川さんはケニアのチェロメイさんに次いで2位でゴールイン。ゴールの山下公園でずっと待っていたのは指導する小出義雄さんです。いつもは朗らかな小出さんですが、那須川さんを迎える顔は今にも泣きだしそう。約15年間の長い師弟関係で「なっちゃん(那須川さんの愛称)はね、人がいいからなかなか一番になれないんだよ」と言っていた小出さん。そのなっちゃんが日本人一番の笑顔で帰ってきたのです。
那須川さんは岩手県奥州市の出身。今年8月、地元のロードレース大会にゲストランナーで参加しました。その時、被害の大きかった沿岸部から参加したランナーに「あなたはいつも途中までは先頭集団にいる。でもその走りに元気をもらってるよ」と言われたそうです。レース後の記者会見でその話をしながら大粒の涙をこぼした那須川さん。被災した人を励ます走りをしたいと思いながら、後半も頑張れるように米・ボルダーで過去最高の練習量をこなしました。それは週に1度40キロ走を行うという厳しいもの。同時に食事も牛豚鶏を朝昼晩と食べ、張りのある筋肉を作り上げたのです。
そんな合宿を乗り越えて自信があったのでしょう。那須川さんはホテル代など全てを負担し、故郷からご両親と花巻南高校時代の恩師を横浜に招待しました。ゴール後、那須川さんを囲む輪はこたつで談笑するような温かさでした。優しさが力となった那須川さん。ご両親たちをモスクワ世界選手権に招待する日まで、更に力を増し続けることでしょう。
(共同通信/2012年11月19日配信)
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