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おしゃべり散歩道2013

もがき、苦しみ表彰台へ

 モスクワ世界陸上選手権。女子マラソンで日本に4年振りのメダルをもたらした福士加代子さんが日本代表チームに勢いをつけてくれました。トラックのスピードの女王はもがき苦しみながらマラソンに挑戦し、何度も失敗。でも諦めなかったから表彰台に上る日を迎えられたのです。私は解説しながら、福士さんが19歳の時、トラックをちょんまげ頭で駆け抜けたことや、良くても悪くても笑顔を忘れなかったことを思い出し、涙がこぼれて仕方ありませんでした。この日の笑顔は、これまでで一番美しいものでした。
 今回は30度を超える暑さで、出場70名のうち24名が途中棄権するという過酷さ。野口みずきさんの途中棄権も脱水による脚の痙攣が原因でした。でも、野口さんが世界の舞台に立つまでの9年という道のりは、マラソンよりも辛くて長かったことでしょう。レース翌朝、首から銅メダルを下げた福士さんに放送センターで会うと、開口一番「野口さん、大丈夫ですか?」と福士さん。私は野口さんの様子を報告。すると「野口さんと練習をさせて貰ったお蔭でマラソンが分かってきた」と福士さんは話し、自分も昨晩は頭が痛くて殆ど眠ることが出来なかったと苦笑いしたのです。やはり軽い熱中症を起こしていたのでしょう。
 この日、福士さんは2歳上のお兄さんの結婚式に出席します。実は、福士さんが家族みんなをモスクワに招待して、レースの翌日に赤の広場の近くの教会で挙式することを事前に決めていたのです。お祝いに水を差すようなレース結果を出せないように、自分自身にプレッシャーをかけたのかもしれません。モスクワは福士さんにとって生涯忘れられない場所になりそうです。

(共同通信/2013年8月12日配信)

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