力走中本さんに武者震い
33年の時を越えて日の丸をつけたマラソン選手がモスクワの街を駆け抜けました。モスクワ世界陸上選手権男子マラソンで中本健太郎さんが見事5位入賞。日本でテレビを観て応援していた人たちは「よく頑張った。価値ある5位だ」と思ったに違いありません。
昨年、中本さんがロンドン五輪で6位入賞を果たした時、陸上競技関係者は「今、日本選手が出来る最高の走りだった」と賛辞を贈りました。その意味は、スピード力に勝るアフリカ勢が30km過ぎで飛び出した時にそれに付いていけなくても、日本の「粘り」という持ち味を発揮すれば、前でペースが落ちてきた人を一人また一人と抜きながら入賞に食い込むことが出来るということ。まさに中本さんはそんな走りをロンドンでみせてくれたのです。
しかし今回の中本さんの走りは、更にレベルアップしたものでした。アフリカ勢が30km過ぎでスパートした時に離されたものの、諦めることなくペースを維持し、35kmで再び先頭集団に。私は救世主キリスト聖堂付近で応援しながら、36km過ぎで目の前を通り過ぎる第一集団に中本さんがいるのを見て、武者震いがしました。アフリカ勢5人と日本人1人。世界大会の勝負所に日本人がいる嬉しさは何ともいえないものでした。しかも表情を変えずに淡々と走る中本さんは他の選手と比べて汗の量が少なく、目に一番力があったのです。普段はおとなしくて派手さのない中本さんですが、凛々しい日本男児の魂に触れる思いがしました。
日本の男子マラソンは近年では80年代に瀬古利彦さんらが活躍し、92年に森下広一さんがバルセロナ五輪で銀メダルを獲得。世界の層が厚くなる中、再びメダルの背中が見えてきました。
(共同通信/2013年8月18日配信)
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