王国知る貴重な経験
日本各地から桜の便りが聞こえる中、エチオピアから帰国して間もなくの小川博之(三井住友海上陸上部コーチ)とお会いしました。小川さんは2月20日から3月中旬まで行われた日本陸上競技連盟長距離強化選抜高地合宿に同行。初めてのエチオピアは衝撃的だったようです。「部屋を一歩出ると全部が練習場なんですよ」と目を輝かせます。
首都アジスアベバ郊外の合宿地の標高は2800m。若手選手6人とスタッフは、ケネニサ・ベケレさん(五輪1万m2大会金メダリスト)の経営するホテルに宿泊。選手は主食のインジェラが中心のホテルの現地食には慣れましたが、夜7時から翌日お昼まで停電になった時は真っ暗な部屋でトイレの水も流れず困ったようです。ホテルのすぐ近くに400mの競技場があり、裏手は森、道路を挟んで直線が2kmもある草原が広がっています。合宿に参加した日高侑紀さん(三井住友海上)は「生活を通して自分が野性的になっていくような感覚でした」と笑います。
エチオピアの選手のメイン練習は朝。たまに男子のトップクラスの選手の後ろに付かせてもらい、速いスピードやその動きに触れることも出来ました。現地の選手からはエチオピア体操を教えて貰ったそうです。ももを高く上げたり、全身をリズミカルに動かしたりしながら体を作っていくもの。「行っているうちに選手の走りがしなやかになりました」と小川さん。
私が選手の頃はアフリカで練習などあり得なかったのですが、今は長距離王国エチオピアやケニアの選手の生活や練習に触れる機会が多くなりました。6年後の東京五輪を目ざす若くて感受性が豊かな選手にとって、これ程貴重な経験はありません。
(共同通信/2014年3月24日配信)
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