チームメイトとつかんだ五輪
6月24日から3日間にわたり開催された第100回日本陸上競技選手権大会。初日の女子1万m、名古屋のパロマ瑞穂スタジアムの観客席には赤い帽子やウエアが目立ちました。第2コーナー上に日本郵政グループの応援団が約200人。第4コーナー上には鈴木亜由子さんの故郷、豊橋市からバス4台で訪れた160人の応援団。
監督の高橋昌彦さんとスタンドで待ち合わせ。ところが、スタート直前に高橋さんの表情は曇っていました。「鈴木が15分前に、濡れた階段を滑り落ちてお尻を強打しました」と。転んだ後に、暫くうずくまっていたそうです。高橋さんはこれまで育てた選手がレース前やレース中に転んだ時にいい結果が出なかったので、心配でたまらない様子。亜由子さんのお兄さんも私の隣でショックを隠せません。
私も心配しながらレースを見守りましたが、亜由子さんは何事もなかったかのように1000mでトップに立ち、レースを主導。「でも少し走りが硬いかな」と高橋さん。すると、チームメイトの関根花観さんが前に出てハイペースを維持。「関根は鈴木が転んだのを見ていたので、自分が助けなきゃと思っているのでしょう」と高橋さん。7000m過ぎからは2人だけでの優勝争いに。ラスト2周で亜由子さんがスパートし、花観さんが徐々に離され、4秒差で亜由子さんが優勝(31分18秒73)。リオ五輪が内定しました。人は何かアクシデントがあると本質が出ると言われますが、まさに亜由子さんの心の強さ光りました。
「二人は練習中も伸び合える関係」だと高橋さんは話します。お互いに認め合い、尊敬し合っているのです。これからも二人は若鮎のように上って行くでしょう。
(共同通信/2016年6月27日配信)
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