見事な復活、新谷さん
福島市の阿武隈川に毎年帰ってくる白鳥のように、陸上界に5年ぶりに帰ってきた新谷仁美さん。紅葉色づく11月11日に開催された東日本女子駅伝は、正に新谷仁美一色でした。東京チームのアンカーとして出場し、トップと1分半の差を逆転。チームを優勝に導きました。抜かれた清田真央さん、玉城かんなさんらも、日本のトップクラスの選手です。でも、新谷さんの走りは次元が違っていました。
5年間、事務系の仕事をしていましたが「自分が生かされるのは陸上競技。でも国内は意識していません。相手は世界です」と新谷さん。相当な覚悟を持って帰ってきたのです。
思い出すのは、2013年のモスクワ世界選手権。1万mに出場した彼女は9500mまで先頭を走り、最後の1周でアフリカ勢に抜かれ5位に。それでも日本歴代3位、30分56秒70の自己ベストでした。レース後に「悔しい、悔しい。メダル取らなきゃ意味ないんです」と、大泣きしながら話した姿が忘れられません。その後、右足踵を痛めて引退。燃え尽きたのでしょう。この5年という歳月は、新谷さんが心身の疲れを癒やす大切な時間だったのだと思います。
小出義雄さんは「集中力は、これまで私が教えた選手の中で一番」と話します。そして今、指導するのは横田真人さん(800m元日本記録保持者)。「私の仕事は練習環境を整えることと、時々助言したり一緒に走ったりすること」と横田さん。練習メニューも新谷さんは自分で作るそうです。
レース後、2020年への思いを聞くと「今は目の前のレースに全力で向かうだけです」と新谷さんはキリリッとした表情で話しました。苦労した分、それがまた新たな力を生みそうです。
(共同通信/2018年11月12日配信)
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