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おしゃべり散歩道2003

アテネ五輪コースを走る

 お正月番組の収録のため、ギリシャ・アテネに行きました。アテネでは工事のキィーンという機械音が、朝から晩まで鳴り響いています。道路拡張、ホテルの改築、パナシナイコ競技場の修理…。朝もやと、工事の砂ぼこりが入りまじり、遠くに見えるパルテノン神殿をより神話的な風景にしています。
 アテネ五輪のマラソンのスタート地点、マラトンの丘に行きました。そして、五輪のコースと同じ道を走ることに。ゴールは1896年第1回大会の舞台、パナシナイコ競技場です。この道を走ろうと決めたことには理由があります。マラトンに住む副市長とのすてきな出会いがきっかけです。彼はマラソンの伝説(紀元前490年、ペルシャ軍に勝ったアテネ軍兵士が、勝利を伝えるために走った道が現在のマラソンの原点)を誇らしげに話してくれました。
 「彼(アテネの兵士)が、使命感のためだけに走っていたら多分、アテネまでたどり着くことはできなかったでしょう。『精神的なもの』が彼を走らせたのですよ」。この言葉が深く心に響きました。わたしは今までアテネの兵士は、伝達者としてその任務を全うするために命を懸けた。そして、達成した瞬間に息絶えてしまったと思っていました。副市長の言う「精神的なもの」とは何なのか。同じ道を走り、少しでもその意味を理解したいと思いました。
 そして、緩やかなアップダウンの続く道を走りながら、考えていたことがあります。それは、多勢に無勢で勝利した、このアテネ兵士の喜びです。どれだけうれしかったことでしょう。「みんなに早く知らせたい。安心させたい!」。そんな強い思いが、戦い終えて、疲れ切った彼を支えていたのかもしれません。
 兵士が思いを伝えるために走った道は今、選手たちの表現の場(道)になっています。

(共同通信/2003年11月26日配信)

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