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おしゃべり散歩道2004

5、6位はメダルの価値

 アテネ五輪最後の仕事は、閉会式のラジオ中継でした。星空が照らすフィールドの真ん中。らせん状の金色の麦畑が現れ、草刈りがまを持った収穫者が麦畑の中を歩きます。赤トンボが飛んでいてもおかしくない、郷愁にかられる風景に数時間前にゴールした男子マラソンを思い出していました。
 日本の油谷繁選手は5位、諏訪利成選手は6位と見事な成績でした。IBC(国際放送センター)の中で国際映像を見ていたわたしに「残念だったね」と声を掛ける人が数人いました。金メダルを獲得した女子マラソンと比較して言うのでしょうが、とんでもない! 「男子の5位、6位は女子のメダルぐらいの価値があるのですよ」と、そのたびに説明しました。油谷選手と諏訪選手は世界記録を持つケニアのテルガト選手、シドニー五輪銀メダリストのワイナイナ選手を置き去りにしてのゴールインでした。
 25キロすぎ、ブラジルのデリマ選手(3位)がスパートしたとき、苦しい中でよくついていきました。そこで集団は9人に絞られましたが、シドニー五輪のときも、アトランタ五輪のときも日本の男子選手はあそこで離れ、勝負に加われなかったのです。未来のマラソンへの「大きな一歩」だったと思います。
 それにしても、驚いたのは36キロ付近。トップを走るデリマ選手に沿道から近づき、彼を道端に押しやる男性が現れました。あんなことがあっていいのでしょうか。解説者の谷口浩美さんも「あのスピードで走っていれば、体も気持ちも止まってしまう。レースを最初から組み立て直さなければいけない」と話しました。それから、3位に落ちるデリマ選手をだれもが心配して見ていたことでしょう。
 でも、彼はパナシナイコ競技場に笑顔で現れました。そして、ゴール間際には飛行機の形をするパフォーマンス。さすがブラジル人! その朗らかさにほっとさせられました。

(共同通信/2004年9月1日配信)

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