心の力で走って2位に
けやきの落ち葉が路面を彩った旧中山道には応援の人垣が三重にも四重にも連なっていました。第1回さいたま国際マラソンで優勝したのはエチオピアのアツェデ・バイサさん。そして「吉田、がんばれ」「香織ちゃん、ファイト」と、日本人トップの2位でゴールした吉田香織さん(34歳)には一際大きな声援が。
吉田さんは先頭集団で走っていましたが、30キロ過ぎにペースメーカーが外れた後、一時は3位に落ちました。しかし38キロ付近でチェシャイアーさん(ケニア)を抜き2位へ。一番苦しい所からの追い上げは正に彼女の人生そのものでした。
進学率ほぼ100%の進学校、県立川越女子高校から小出義雄さんに勧誘を受け、積水化学に就職。その後資生堂に移籍し、クラブチームへ。仕事をしながら競技を続けていたものの、貧血のため投与された薬でドーピング検査が陽性になり、2年間の出場停止処分になったのです。でもその間、一言の言い訳もせずに、英語を勉強するためにフィジーに留学したり、旅行関係の資格を取る勉強をしたり。
人知れずたくさん涙を流したことでしょう。レース後、お母さんの晴代さんは「もう十分頑張ったから、親の気持ちとしてはここで辞めて欲しい。でも香織は市民ランナーの代表としてまだまだ走り続けるでしょう」と泣いていました。空き家になっている坂戸市の実家で、香織さんは仲間のランナーと一緒に合宿を行うことも。その度に「父が運転する車で母が手料理を届けてくれました」と香織さん。どんな時も家族が支えになったのです。
埼玉で会った吉田さんは、可愛いらしさにカッコよさが加わった感じ。マラソンは心の力で走るものだとつくづく感じました。
(共同通信/2015年11月16日配信)
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