2020年に期待、木村敬一さん
マスコミ各社で一年を振り返り活躍した選手に授与されるスポーツ賞、今年は木村敬一さん(パラ水泳、全盲クラス)の受賞が目立ちます。リオデジャネイロパラリンピックの競泳において、5種目に出場し4個のメダルを獲得。5種目10レースを泳ぎ切った後に「完泳しました」と話す姿が印象的でした。でも本人は「4つのメダルよりも1つの金メダルが欲しかった」と。全然満足していない姿に、4年後への期待が膨らみます。
実は私、木村敬一さんとは7年前に彼が大学生の時にお会いし、今も仲良くさせて頂いています。2009年に開かれた東京アジアユースパラゲームズでは、私が選手団長、木村さんが主将を務めたのです。記者会見などでいつも2人並んで話しますが、とにかく木村さんはスピーチが上手。隣で私は引け目を感じながらスピーチを褒めると、「僕、何も見ていませんからね」とユーモアで返ってきました。
そんな木村さんの逞しさを育んだのは、お母さんの存在だとつくづく思います。先天性疾患で幼くして視力を失った敬一さんですが、好奇心は人一倍。走り回ってケガが絶えなかったそうです。でも「母は僕をおとなしくじっとさせるのではなく、水の中に入れればいいと思ったようです」と。プールに行くようになってもターンで壁にぶつかったり、コースロープで手や腕にケガをしたり。そしてお母さんは、滋賀県で育った彼を小学校卒業と同時に茨城県の盲学校での寮生活に送り出しました。正に「可愛い子には旅させろ」です。
とかく親は過保護になりがちですが、木村さんのお母さんの勇気はすごいです。授賞を遠くから喜ぶ、お母さんの優しいお顔が目に浮かぶようです。
(共同通信/2016年12月12日配信)
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