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おしゃべり散歩道2002

強くなりたい若者たち

 今年のファッションの流行のテーマは、「ロマンティック」と「ボヘミアン」らしい。「夢」と「放浪」だ。また今、若い男の子の間で「バガボンド」(作・井上雄彦)という漫画がよく読まれているのをご存じだろうか?
 このタイトル、バカボンパパの「バカボン」と間違えそうだが、意味は「放浪者・漂泊者」。吉川英治のベストセラー小説『宮本武蔵』が原作である。
 作者の井上さんがあえてタイトルを「宮本武蔵」にしなかったのは、より「「放浪」(さまよい歩く)を強調したかったからなのかもしれない。
 ところで、『宮本武蔵』といえば、私の選手時代の愛読書だった。それで興味津々、「バガボンド」のページを開いてみた。期待通り! 魂が泡立つような激しい言葉が続いている。例えば宝蔵院の僧正、胤栄が武蔵に諭すシーン。「時に、己の命を業火にさらすような状況を乗り越えてこそ、『心』は充実する」等々、こんな言葉が、武蔵の鋭い表情とともに登場するのですごい迫力なのだ。
 これを今、電車の中でも少年たちは真剣に読んでいる。なぜなのか? 彼らは、こんなことを言ってくれる人を求めているのではないか。自分の中に眠る「野心」を目覚めさせてくれる人を。私が高校時代、『武蔵』を読んだのも、まっすぐな激しい言葉に「まだまだやれる」と、自分を追い込むことができたから。
 今、親も子供に優しいし、先生もあまり強いことを言わなくなった。だから、昔のようなガキ大将も少ないし、夢は? と聞かれて「国を変える!」と言った坂本竜馬のような若者もいない。
 でも、彼らは今、「強くなりたい」と、思っている。自分探しの放浪の旅の中で、大きな夢をつかみたいと思っている。だから、私たち大人は、もっと自分に自信を持って、彼らの心を貫く言葉を言ってあげてもいいのではないか。

(産経新聞/2002年4月10日掲載)

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