6連勝の「わけ」
走って良し、しゃべって良し。Qちゃん(女子マラソンの高橋尚子選手)は優等生にみえる。レースの後は必ず「沿道のみなさんの声援が力になりました」と言う。そんな彼女を「あんなに『いい子』にならなくてもいいのに…」という人もいるが、普段から「いい子」なのだから仕方がない。
暇があれば、届いたファンレターの礼状を書いている。今回も、合宿先の米国コロラド州ボルダーからパリ経由でベルリンに移動しているさなか、ロッキー山脈の絵はがきを数枚、パリのシャルルドゴール空港で投函した。「こういうのもおしゃれですよね」と、にっこり笑いながら。レース前夜、小出義雄監督はQちゃんの体調が心配で朝まで眠れなかったらしいが、彼女はやはり、礼状を数枚書いて床に入ったという。
マラソン6連勝という偉業を成し遂げたわけだが、レース後の開口一番は「記録を期待してくださった方には申し訳ない気持ちでいっぱいです」だった。レース中、Qちゃんに5メートルまで近づき、バイクリポートした北海道文化放送の近田誉アナウンサーは、後半の走りについて次のように話す。
「昨年(世界最高記録を出したとき)の高橋は沿道と一体化して記録を作りにいく!という感じだったが、今回は頭こそ下げないものの(足のまめの痛みから上がらないペースに対して)『すみません』という表情をしていた」
こんなデリケートな選手が勝ち続けているのだ。いや、こういう素直でまっすぐな妖精みたいな性格だからこそ、感謝の気持ちがそのまま力になるのだろう。
過去の五輪メダリスト(取っていないけど私も)は、レース中に体調がよくないと、プライドから「負けるよりもリタイアしてしまおう」とレースを投げてしまうこともあった。でも彼女は言う。「苦しいときはやってきた練習の1%もむだにしたくない、もったいないと思うと頑張れるんです」と。こんなQちゃんは、いったいどこまで伸びるのだろう。
(産経新聞/2002年10月8日掲載)
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