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おしゃべり散歩道2002

『自分に生きて』いい

 松井秀喜選手が苦渋の表情で米大リーグ入りを宣言した。「もっと一緒にやってくれると思っていたのに…」。巨人・原辰徳監督はショックを隠しきれなかった。監督の気持ちはよくわかる。
 たとえば、プロ、アマの違いはあれ、陸上界に置き換えたとき、実業団駅伝で日本のトップを走る三井住友海上のエース、渋井陽子さんが突然、「海外で自分の力を試したい」と言い出したら…。手塩にかけて育てた監督は気が抜け、彼女を慕うチームメートは置き去りにされたような寂しさを味わう。渋井さんは心を痛めるだろう。
 日本人は義理、人情に厚い。長所でもあるのだが、そのために個人がチャンスをつかみにくくしているとも思う。これが米国の選手だと自分の可能性にどん欲だ。よりよい環境を求めて移籍をし、良い結果を出せば、さらなるチャンスを求めて行動する。
 日本選手も、もっと「自分に生きて」いいのではないかと思うときがある。日本一になったら「次は世界一になりたい!」と思うのは当然なのだから。
 陸上の某実業団チームの監督は選手に「足るるを知る」という仏教の言葉を教えていた。いまある環境に感謝し、その中で精いっぱいのことをするということ。この考えには一理あると思う。組織の中では、個人の考えはなかなか実現しないものだ。そんな世の中への対応力は養えると思う。
 でも、選手として「今」できることは「今」しかない。その環境に甘んじていては、低いレベルで満足する選手で終わってしまう。もっと世界に目を向けられる選手を育む改善が必要だと思う。松井選手に「ジャイアンツ魂を見せてきます」などと気を遣わせるようでは、まだまだなのだ。

(東京中日新聞/2002年11月6日掲載)

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