悔しさバネに快走
海からの風にほほ笑むように建つ横浜赤レンガ倉庫。「2005年横浜国際女子駅伝」のスタート、ゴールとなりました。石畳に染み込む世界の女子ランナーたちの足音。美しい横浜は女性の大会にふさわしい舞台です。
駅伝の醍醐味(だいごみ)は、たすき渡しにごぼう抜き。駅伝初出場のルーマニアのリディア・シモンさん(シドニー五輪のマラソン銀メダリスト)は前日「たすきを手で持っちゃいそう」と話していました。「それはルール違反よ」と私が言うと、「え、どうして?」と驚くのでした。そして通訳の岡本さんにたすきの掛け方を教わったのですが…。当日は一瞬ネクタイのように首に掛けてしまいヒヤッとさせられました。
アテネ五輪の女子五千メートル金メダリスト、エチオピアのメセレト・デファルさんは3位でたすきを受け取りました。普段は先頭を走るデファルさん、人が前にいたから闘争本能がむき出しになったのでしょう。前走者が近づいてくると「何モタモタしてるの、早くしなさいよ!」と言っているかのように大きな声、大きなしぐさで手招きし、たすきを受け取ると百メートル走のような勢いで飛ばすのでした。個人のレースでは冷静な人も、駅伝では感情があらわになります。でも、そこに人間くささを感じるのです。
日本チームは3年ぶりの優勝を遂げました。その立役者は2区の加納由理さん(資生堂)。力強い走りで区間新記録を樹立。パッチリとした目からは強気な光線があふれていました。国際的な舞台で選手が際立った活躍をするとき、悔しい思いをバネにすることが多くあります。加納さんは2年前、練習中にバイクと接触し、転んで足の小指を骨折。半年間レースはおろか練習すらできず相当悔しかったようです。
その気持ちを力に変えて8月のヘルシンキ世界陸上長距離選手の有力候補に躍り出ました。これからの活躍が楽しみです。
(共同通信/2005年3月2日配信)
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