足が壊れるまで走る
3月には珍しい雪が空を舞い、芝生に白い花を咲かせているようでした。第19回福岡国際クロスカントリー大会(海の中道海浜公園)。大会前の市民クロカン(3キロ)に私は野口みずきさんとともに参加しました。「上り坂は足で走ろうとしないで、腕(前後に大きく振って)で走ってくださいね」。みずきさんが皆さんにアドバイスすると、どうでしょう。特に小中学生のほとんどが腕をかなり大きく振って走りました。そんな姿を横に"あこがれの人"の一言の重みを感じずにはいられませんでした。
さて、市民の方々と走った後は、みずきさんと2人でレース解説。何といっても注目はアテネ五輪女子五千メートル金メダルのメセレト・デファル(エチオピア)と同マラソン銀メダルのキャサリン・ヌデレバ(ケニア)の両選手。日本の長距離トップランナーも多く参加する豪華なレースでした。
「ヌデレバさんは前半は自重気味。後半に勝負を仕掛けます」と、みずきさんはアテネで追い上げられたヌデレバさんに注目していました。そのヌデレバさん、雪が溶けてぬかるむ道を、この距離(6キロ)のスペシャリスト、デファルさんにぴったり付いて日本のトップランナーたちを引き離したのです。そして堂々2位でゴールイン。みずきさんが驚きながら「世界で活躍するマラソンランナーはトラック、クロカンの垣根なく強いですね。そこをこれから学んでいきたい」と話したのが印象的でした。
みずきさんに北京五輪について尋ねると、「3年先のことはマラソンのレースと同じように何が起こるか分かりません。だから今は目の前の試合を一つ一つ大切にこなしていくことが私のモチベーションです」と返ってきたのです。それじゃあ「いつまで走りたい?」との問いに、「足が壊れるまで」と答えた彼女の大きな目に、白い雪が星のように映りました。
(共同通信/2005年3月9日配信)
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