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おしゃべり散歩道2005

晴れやかな福士さん

 第89回日本陸上競技選手権が6月の初旬、国立競技場で行われました。女子10000m、5000mの2種目を制した福士加代子さん(ワコール)。ゴール後の表情がなんと晴れやかだったことでしょう。
 福士さんは去年のアテネ五輪の時、女子10000mの日本代表に選ばれながら足のケガで練習が出来ず、決勝は散々な結果に終わってしまいました。「あんな福士は見たくなかった」と、陸上関係者からは嘆きの声すら飛んでいたのです。その後ちゃんと立ち上がってくれるかしらと私は心配していましたが、今年の初めには永山忠幸監督とあまりうまくいっていないという噂が流れ心配は増すばかりでした。
 「確かに福士とは溝が出来ていました」日本選手権で福士さんが勝利した後、永山さんに話しを伺うとこんな言葉が。勝ち続けている時は迷いも不信もなくやっていたのに、ケガをして走れない期間、福士さんが辞めていった先輩に「監督のこと嫌いになって辞めたんですか」と相談したり、監督への信頼に揺らぎが生じていたようです。それを感じ取った永山さんは「一時は自分自身が逃げたくなった」と。しかし、調子が悪いときにも一生懸命努力する福士さんの姿、“願えば叶う”という座右の銘を貫く彼女を見ながら、「福士を信じ続けよう」という気持ちになったのでした。
 日本選手権の2日前、某TV局のインタビューで抱負を聞かれた時、永山さんが「小さい頃の運動会の気持ちで走ってくれたら」と福士さんのことを話しました。その10分後、別の場所でインタビューを受けた福士さんがやはり「小学校の時の運動会のつもりで走ります」と言ったのを後で知った永山さん、心が通い合っていることを確かめ、涙が出るほどうれしかったそうです。
 この勝利は、二人が悩み苦しみながらもお互いを信じきった証であり、福士さんが監督に見せたかった本当の笑顔の復活です。

(共同通信/2005年6月8日配信)

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