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おしゃべり散歩道2005

おいしい朝ご飯で銅だ

 フィンランド・ヘルシンキ。数日間続いた冷たい雨は上がり、短い夏を彩る花々が一段と輝きを増した土曜日。世界陸上男子マラソンが行われました。緑色の屋根と白い壁の美しいヘルシンキ大聖堂を背に選手たちはスタートラインへ。午後2時20分、号砲と同時にスタートしました。
 レース2日前の木曜日。尾方剛選手(中国電力)を指導する坂口泰監督と夕食を共にする機会に恵まれました。坂口さんの早稲田大学陸上部の先輩である瀬古さん(S&B監督・今回の解説者)も同席。「坂口、頑張れよ」と瀬古さんから激励のワインを勧められ、坂口さんはホロ酔いになり舌も滑らかでした。私が「記者会見で尾方さんは“すべての期待が高岡寿選手(4位入賞)にかかっているから僕は気楽です”と言ってましたね」と尋ねると、坂口さんは「尾方はアテネと比べると“動”から“静”の強さに変わった。尾方はやるよ」とすでにこの時話していました。
 夜10時を過ぎると坂口さんはソワソワし始め時計を頻繁に見るのでした。「坂口、もう帰りたいのか」と瀬古さんがからかうと、「朝ごはんを届けなきゃいけないから寝坊できないんですよ」と坂口さん。合宿中でも大会でも炊飯器を持参し、日本から持ってきた美味しい“ごはん(白米)”を炊いて、選手に食べさせることを心がけているようです。でも尾方さんが出場した2002年ロンドンマラソンの日の朝、坂口さんは寝坊してごはんを渡せませんでした。それをずっと反省しているのです。ヘルシンキに来て坂口さんは毎朝7km走って尾方さんが宿泊するホテルへごはんを届けていました。「僕に出来ることはこれくらいですから」と坂口さん。その日も夜10時20分に宴席を後にしたのです。
 そして尾方さんが銅メダルに輝いた日、「あの日は朝ごはんに間に合いましたか」と尋ねると、ニッコリ笑って「特に美味しく炊けたんですよ」と。きっと尾方さんは温かいごはんを食べながら、坂口さんの優しい表情を思い浮かべたことでしょう。

(共同通信/2005年8月17日配信)

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