葛巻の大自然、心に栄養補給
「熊がいるというよりは、熊が住んでいるところに人がいる感じなんですよ」。中村哲雄町長はいたずらっぽい表情でこう話しました。先日岩手県葛巻町を訪れた時のことです。その日私は俳人の黛まどかさんと葛巻へ。彼女が呼びかけ人代表を務める“プロジェクト・ええじゃないか第一幕岩手葛巻”へ参加するためでした。私たちよりも遅れて歌手の谷村新司さん、日本画家の千住博さんたちも到着。皆、ええじゃないかの趣旨“日本文化とその原点である地域を元気にしよう”に賛同しての参加です。
東北新幹線・いわて沼宮内駅で降り、車で40分。葛巻に入ると道のすぐそばまで山が迫っている感じで、栗・カラマツ・白樺の木々の緑の深さに圧倒されました。道路のすぐ脇を流れる清流には水車小屋も見え、聞くと中ではそば粉を挽いているとのこと。「11月になるとカラマツが金色に輝くんです」と町の人が誇らしげに話しました。そして冒頭の言葉はその晩の懇親会で町長さんがおっしゃったのです。
豊かな自然の中で全国から約100名の方が参加。廃校になった教室での千住さんの講義は、岩絵の具を使って薄い木皮に自由に絵を描くものでした。木皮はそれぞれに模様があり一枚一枚に表情があります。「自由にイメージして筆を動かしてください」と千住さん。受講者は自分のイメージで空に虹を浮かべたり、川に流し雛、蓮の花など様々なものを描きました。私はすべり台で遊ぶ子供を描きましたが、その時間の何と豊かで楽しかったことでしょう。芸術の素晴らしさを少し理解した気がします。
私の講義は小さな運動場で水車の回る音を聞きながら、ゆっくり全身のストレッチと軽いジョギング。この日講師として参加した私ですが、大自然の中で豊かな時間を頂きました。日々の便利で忙しい生活の中で不足していた“心の栄養”を与えられたのです。
(共同通信/2005年8月24日配信)
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