早くも次の頂を見つめ
例年よりも暖かなドイツ・ベルリン。菩提樹やマロニエの街路樹の木漏れ日が、小柄な野口みずきさんを包むように照らしていました。走るには暖かすぎた日曜日、みずきさんは見事女子マラソン日本新記録の力走でゴール手前のブランデンブルク門をくぐったのです。
レース前「勝負するレースのほうが楽。記録が相手だと自分自身と戦い続けなければならないのでしんどいです」と語っていただけに、レース後は解放されたホッとした表情でした。それにしても気温が20℃まで上がった中での2時間19分12秒の記録。昨年までの気温(9〜14℃位)なら間違いなく18分台が出ていたことでしょう。
その夜、みずきさんはじめチームの方々と共に鉄板焼を食べに行きました。「おなかが空いていたんです」。みずきさんは大きな目を輝かせながら目の前のステーキやロブスター、まぐろのお寿司をぱくぱくと食べ始めました。笑顔だけでなくノースリーブから覗く腕の筋肉も料理に箸を伸ばすたびにまるで微笑んでいるように見えました。
「みずきさん、この後は少しゆっくりしたいでしょ」と私が尋ねると、「えっ、すぐ走りたいです」と。隣で藤田信之監督は「野口は普段は27歳なのに、走ることになると一生懸命な子供みたいだから」と笑うのでした。
首で揺れるガラス細工のネックレスは合宿地スイス・サンモリッツで仲良くなったレストランで働くの女性の手作り。「サンモリッツはベケレさん(エチオピア)とかオリンピック金メダリストたちも合宿しているんです」とみずきさんの心は、すでにスイスのアルプスの麓に飛んでいっているようでした。日常生活に金メダリスト達がいるサンモリッツは彼女の第二の故郷のよう。そこで今すぐにでも走りたい。アルプスを見つめる瞳にはすでに次の山の頂が見えているのでしょう。
(共同通信/2005年9月26日配信)
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