駅伝の醍醐味味わう
毎年、文化の日、旧中山道(埼玉県)は闊達・可憐な女性達の舞台となります。しっとり濡れた落ち葉が模様を作る路面。今年もここで第16回東日本実業団女子駅伝が行われました。
優勝した三井住友海上の鈴木秀夫監督はゴール後「この優勝は味わい深い」と静かに話しました。これでチームは6連覇の偉業を成し遂げたのですが、実はレース前「今年の三井住友海上は優勝が難しい」と関係者からは言われていたのです。実際私がレースの一週間前、東京都町田市のグラウンドを訪れると土佐礼子さんは足の指の故障で軽いジョギングを。エースの渋井陽子さんは出場する予定の北京マラソンを取りやめた後も調子は上がらず、チームナンバーワンのスピードを持つ橋本歩さんは貧血の不安を抱えていました。
しかし、渋井さんは「うちは駅伝では絶対負けられません。明日あさってでポーンと調子が上がりますよ」と力強く話したのです。また新人の林愛美さんはこの日の練習で唯一自己ベストを出し、「よかったなー」と監督に言われ、先輩達からも褒められ、自信を付けたような表情で大きな目を輝かせました。
さて、レース当日。4位でタスキを受け取った渋井さんは最初から全力疾走の勢いで前の選手に追いつきました。鋭い目、前傾姿勢のフォーム、全身から気迫が伝わり、私は渋井さんの「駅伝では負けられない」という言葉を思い出さずにはいられませんでした。そして2位でタスキを受け取った林さんが渋井さんの思いを引き継ぐかのようなすごい勢いで飛ばし、まばたきも忘れたかのような強い表情で前へ前へと。そしてアンカーの橋本さんがトップをいくホクレンに追いつき追い越したのです。チーム一人一人のプライド、気迫、意地が“ひとつになった勝利”だと強く感じました。駅伝の醍醐味を存分に味わえたレースだったのです。
(共同通信/2005年11月7日配信)
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