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おしゃべり散歩道2005

自然で前向き、花岡さん

 先日、私が隔週で授業をする大阪芸術大学の講義に花岡伸和さん(29歳)がお話に来て下さいました。花岡さんは車イスの陸上競技選手として活躍するアスリート。アテネパラリンピック・フルマラソンでは六位(日本人1位)に入賞しました。大阪府富田林市出身の彼は「事故に遭って良かったかというとちょっと前までは五分五分やった。けど今は一番得意なもので一歩踏み出せたんで、良かったほうが強いかな」と明るくユーモアたっぷりに話します。50分間の彼の講演に、学生たちは引き込まれるように聴き入っていました。花岡さんは高校3年生の時バイクで事故に遭い、その時「やってしもうた」と思ったそうです。でも車イスの生活を余儀なくされた時も、足の事よりも「みんなと一緒に高校を卒業したい」ということばかりを考えていました。また実際車イスと出会いあまりの便利さにワクワクし、事故から1年半後にレースに参加。それからは強くなる一心で自分が競技に打ち込める環境探しに走り回りました。最初は公務員でしたが「アテネの1年前、僕はプー太郎。1日中練習に集中したくて仕事を辞めたんや。でも6位に入ったんで車イスメーカーと契約できて良かった」。
 学生たちは花岡さんを前にあっけにとられたような顔をしていました。それは障害を持った人へのイメージが変わったからだと思います。花岡さんは苦しみをこう乗り越えたとかいう話をするのではなく、そうかといって無理して明るく振舞っているわけでもなく、とにかく自然な前向きさが伝わってきたのです。彼自身がパラリンピックの前のマスメディアの伝え方に疑問を持っていました。「障害を乗り越えてこうなったという“お涙頂戴”の姿に変えられるのは嫌やな」と。もっと“人”を見て欲しいと話したのです。
 障害者スポーツにおいてこれまで私は、どう障害を乗り越えたかに重点をおき取材をしてきました。しかし “アスリート”として観る視点が大事なんだと、花岡さんから強く感じました。

(共同通信/2005年12月12日配信)

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