世界の舞台で戦う力を
美濃路に降りしきる雪が選手達の髪の毛や眉毛までも白く包んでいました。第25回全日本実業団女子駅伝はスタート時の気温が1.5度、大雪の中で行われたのです。優勝したのは三井住友海上、見事な三連覇でした。さて、スタート前、多くのチームの監督や選手達が口にしていたのは、「フィレス」。1区を走るホクレンのケニア選手の名前です。彼女は山梨学院大付属高校を卒業しホクレンに入って1年目の選手。日本語が上手で大会のアンケート用紙も日本語で。ホクレンの森田監督は「ケニアの選手にしてはごっつくて、決して体格的には恵まれていない。彼女は努力の選手です。練習日誌も日本語で書くんですよ」と話してくれました。
スタート前、「フィレスがどれくらい飛ばすか」、「フィレスに30秒以内の差で収めたい」。彼女の圧倒的な強さ意識した声が聞こえていました。そして予想通りフィレス選手は400m過ぎから飛ばし、あっという間に差を広げてしまったのです。ただ、11月の東日本の予選会では彼女が1区で飛ばし、2位集団から姿が遠くなっても、日本人選手達はフィレス選手を“別物”と思って、その集団の中でけん制し合っていました。しかし今回は三井住友海上の高山選手など、日本選手達は先をいくフィレス選手に差を開かれながらも、追う姿勢を最後まで崩さなかったのです。その結果、東日本では53秒の差だったのが、今回は27秒差で2区へつなぎました。日本選手達はフィレス選手を目標にし、確実に自分たちの力を付けています。
私はそんな光景を見ながら先週の日本陸上連盟の理事会の決定を思い出していました。それは夏に行われる日本陸上選手権の出場資格。日本人だけの大会にしていこうというものです。外国人選手にとって、他の大会や駅伝などで自由に活躍できる場があるので、日本選手権だけはというものです。しかし、日本人選手にとって世界のレベルを実感できる貴重な場が一つ減ることになるのは、競技力向上の上でマイナスになるのではと危惧します。
(共同通信/2005年12月19日配信)
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