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おしゃべり散歩道2006

マラソンと修行の共通点

 大阪・大槻能楽堂で年に2、3回開かれる「読売こころ塾」。宗教学者の山折哲雄さんが塾長でホスト役を務めて下さいます。6月下旬、私はゲストとしてお招きを受け、マラソンと修行の共通点や選手の心理面などを山折さんと語り合い、大変有意義な時間を過ごすことが出来ました。
 能舞台に上がるのは初めての体験でした。舞台右後方の小さな切戸口から腰をかがめて舞台へ上がると、観客席はL字型で約500人のお客様。「42.195qはどんなものでしたか」と山折さんが穏やかな口調で口火を切られました。私は自らを内観できる種目と話し、40q走の練習で250mのトラックを160周まわった時は、頭の中が真っ白くなる状態でした、と振り返ったのです。すると「比叡山でもお堂の周りをぐるぐる歩く“常行三昧”という修行があるのですよ」と山折さん。
 山折さんは1931年サンフランシスコ生まれ。翌年のロサンゼルス五輪は、一歳の山折さんの記憶には無いが、前畑秀子さんが200m平泳ぎで銀メダルを獲得しました。だから私が出場したロサンゼルス五輪(1984年)にも興味があったそうです。「お二人に共通しているのはお母さんの存在ですね」と。前畑さんはロス五輪後、次のベルリンでは金メダルという周りの期待が大きく、引退を考えていましたが、お母さんの“もう一度頑張ってみたら”という一言に押され、出場を決めたそうです。そして見事金メダル。
 「前畑さんはベルリン五輪で飛び込み台に向かう時“死ぬ覚悟で泳ぐ”、そして飛び込む直前には“神様”と心の中で叫んだそうです」と、山折さんは前畑さんに感じた“お母さん、死ぬ気で、神様”という3つの言葉に対し、トリノ五輪では“自分らしく、楽しく、笑顔で”というインタビューの言葉が印象的だったことも加えたのです。
 優しい眼差しで深く人間を見つめる山折さん。桐の下駄をカランカランと鳴らしながら歩く後姿が、そよ風のようでした。

(共同通信/2006年6月26日配信)

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