キュートで聡明な大器
ちょっと頭をかしげたような優しい表情をした讃岐富士を眺めながら、車で香川県立丸亀競技場へ。8月20日、全日本中学校陸上競技選手権大会を訪れました。女子800mの決勝が行われるこの日、優勝候補の鈴木亜由子さん(愛知県豊橋市立豊城中学校3年生)に逢うことが目的でした。それというのも今、私は陸上少女が主人公の児童文学を執筆中で、読んだ陸上の専門誌から醸し出される鈴木さんの雰囲気がとてもキュートで聡明。本のモデルとして参考にしたいな、と思ったからです。
丸亀競技場に到着。35度の暑さの中、女子800mの決勝20分前に召集場所へ。予選、準決勝を勝ち抜いた8人の選手全員が、首や頭を氷水の入った袋で冷やしていました。私の時代には無かった、スタート直前の暑さ対策です。その中に上下赤いユニフォームを着た鈴木さんが。彼女は昨年の全日本では800m、1500mの2種目優勝。首筋を冷やしながら、コーチの佐藤さんと話す笑顔にはまだ幼さが残ります。
さて、スタートするや否や、鈴木さんはすぐにトップにたち、600mまでは中学記録を上回る勢いで飛ばしました。人の胸を借りようとしない積極性とバネのある柔らかい走りが、大器を思わせます。「がんばれ」私は心の中で応援しました。
ところが、ゴール手前20mあたりで後ろから追い上げる選手に並ばれ、バランスを崩し転倒してしまったのです。すぐに立ち上がり走り始めたものの、結果は5位。相当悔しかったはずです。「残念だったね」ゴール後、言葉をかけると、「昨晩あまり眠れなかったから睡眠不足かな」とにっこり。そして、3時間後に行われた1500mの予選でも、ずっとトップを引っ張って、そのままゴール。心の強さもたいしたものです。佐藤コーチの話しによると、学校ではバスケットボール部に所属しているとのこと。これからじっくり取材したい選手です。
(共同通信/2006年8月21日配信)
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