増田明美のホームページ ビデオメッセージへ各種お問い合わせへトップページへ

TOP > おしゃべり散歩道 > 2006年目次 > エッセイ第44回
プロフィール
おしゃべり散歩道
イベント情報
出演予定
執筆活動
リンク集

おしゃべり散歩道2006

心と心をつなぐ駅伝

 秋の風物詩、駅伝の季節です。赤、黄などのユニフォームが紅葉明かりのように街を明るくします。シーズン前に三浦しをんさんの小説「風が強く吹いている」を読みました。床の抜けかけたボロアパート竹青荘に住む学生たち(陸上と無縁な人が多い)が頭脳明晰なハイジというリーダーの下、たった10人で箱根駅伝を走るという目標に向かってゆくもの。大切なのは「速いランナー」よりも「強いランナー」になること。また選手が強さとともに「言葉」を獲得していく様子。走者が極めて高いレベルに到達した時に感じる風の感覚や思考の研ぎ澄まされ方など「走る」という行為の魅力を余すところなく描いています。
 おかげで私は駅伝の中継に、より楽しい気持ちで向かえるようになりました。文化の日、東日本実業団女子駅伝が埼玉県で開かれ、三井住友海上が圧倒的な強さで7連覇。3区・渋井陽子さん、5区・土佐礼子さんという2人のエースを柱に、強さが維持されているように思われますが、6人中、昨年のメンバーとは3人が入れ替わっています。4区を走った岩元さんは昨年半年間チームを離れ、実家に戻っていました。もう一度走りたいと帰ってきた彼女をチームは快く迎え、岩元さんはその気持ちに応えるかのように全身全霊、沿道の声も聞こえないのではないかと思う集中ぶりで走りました。6区の大崎さんは19歳の新人。最終走者として大変なプレッシャーがあったはず。彼女は襷を受け取ると、オーバーペースと思えるくらいに猛ダッシュ。“チームの役に立ちたい”という気持ちが全身に漲っていました。そのままトップでゴールすると、すぐに渋井陽子さんが彼女の手を取り、インタビューの場所まで手を繋いで歩いていったのです。
 普段は1人で走る選手達が駅伝を通して誰かと繋がり、結びつく。心と心を結ぶ駅伝は、絆のスポーツなのだと感じます。

(共同通信/2006年11月6日配信)

次のエッセイを読む 【2006年の総合目次へ】 前のエッセイを読む


Copyright (C)2001-2021 Kiwaki-Office. All Rights Reserved.
サイト内の画像・文章等の転載・二次利用を禁じます。