人が歩き、走りたくなる道
春分を過ぎ、北アルプスの頂の雪が眩しく光る長野市で「道サミット」が開かれました。シンポジウムでは国土交通省の方や長野県知事、大学の先生がディスカッション。私はその前に行われたオープニングトークにcobaさん(アコーディオニスト)と共に参加しました。
まず司会の草野満代さんがイタリアのアッピア街道を歩いて取材した様子をVTRで紹介。私はその道の美しさにうっとりしました。ローマから南部の都市ブリンディッシに続く、全長600qのアッピア街道は、今から約2000年前に作られたのに、幅4mの石畳の馬車道の両脇に3mの歩道が整備されています。また、1マイル毎にマイルストーンが設置され、それが距離と時間を計る目安となり、移動の効率を高めました。物を運び、人を運び、情報を運んだアッピア街道を見て、“すべての道はローマに通ず”を実感したのです。
草野さんが、「道は文化をつないでいきますね」と話すと、cobaさんは「イタリアで作られたバイオリンがインドまで伝わり、全く別の音色を奏でている。文化は伝わりながら変化するのが面白い」と、音楽家の視点。続いて「国内外、色んな道を走っていますが、特に印象深い道は」と尋ねられ、私は、いくらでも走っていたいと思ったスイス・チューリッヒの街並みについて話しました。17、8世紀に作られた建物の間を細い石畳の道が通り、教会の鐘が染み込むように響いていたのです。
でも、短いトークが終わった後で、私はなぜ日光杉並木の話をしなかったのだろうと後悔しました。日本も負けていません。日光街道はじめ3つの街道を合わせると37q続く杉並木は世界に誇れる道。江戸時代に歩く人たちに優しい木陰を作り、今でもその道は交通量の多い幹線道路です。
今、人が歩きたくなる道、走ってみたくなる道には人が集まります。これからの道に求められるものは、そんな一面もあるのかもしれません。
(共同通信/2007年3月26日配信)
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