痛みこらえ積極レース
スタート時にあがりかけた雨も時間と共に強さを増し、選手達の体を凍てつかせました。第29回大阪国際女子マラソン。優勝候補の赤羽有紀子さんは大会前に左ひざを故障し、出場すら不安視されました。しかし出場を決め、夫でコーチの周平さんは「(痛みのため)スローペースで完走を目指す走りはせずに、有紀子らしい速いペースで積極的に走りたい」と話したのです。
その言葉通り、赤羽さんを中心にレースは速い展開に。外国有力選手に混じり、初マラソンの選手達数人もそのペースに付きました。序盤は2時間21分台の大会記録に近いハイペース。移動中継車から解説していた私には、最近の遅い展開で始まるマラソンに対して、“世界で勝つためには”と赤羽さん自らが先導しているように見えました。しかし、赤羽さんは大阪城公園内の27キロ付近で先頭から遅れ始め、39キロ手前で棄権。レース直後に話を聞くと、痛めた左ひざよりも、そこをかばったために、お尻やふくらはぎの筋肉が張って、けいれんを起こしたようです。
夜、私は招待選手が集まる食事会に出席。赤羽さん夫妻は治療のために来ないだろうと思っていたら、2人が笑顔で現れたのでびっくり。まずは今大会を最後に引退した小幡佳代子さん(38歳・マラソン26回出場)の所へ行き労をねぎらいました。「失敗するのも経験、マラソンは経験がものをいうから」と話す小幡さんの言葉に赤羽さんは小さく頷き、その目に力が戻っていくように私には感じられました。また周平さんは、天満屋の武冨監督はじめ何人かの監督に「色々教えて下さい」と。ずっと監督達の言葉に耳を傾けていたのです。赤羽さん夫妻の真摯な姿と、監督達の優しさに私は心を打たれました。
(共同通信/2010年2月1日配信)
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