マラソン修行
冬将軍が最後の力を振り絞るような氷雨の中、2月28日東京マラソンが行われました。スタート時の気温は5度。移動中継車に乗り女子の先頭集団を追った私の耳にも、ピチャピチャという足音が聞こえ、選手たちが気の毒に思える程でした。女子の優勝候補と言われた那須川瑞穂さんは寒さのため体が動かず、後半失速。尾崎朱美さんも途中で立ち止まり寒さに震えるような仕草。また吉田香織さんはゴール手前800mで34.5度の低体温により一時意識不明になり病院に運ばれました。男子も優勝タイムが2時間12分台という遅い記録。自然の中で行うスポーツとはいえ、有力招待選手が次々に棄権する状況があまりにも不自然に思え、色々考えさせられました。
これまでマラソン界は夏に開催される五輪や世界陸上のために、暑さ対策を入念に行ってきました。しかし、寒さ対策には取り組みが少なかったように思えます。気温と体温について、スポーツ科学を研究する杉田正明さん(三重大学准教授)に話しを伺うと「夏の暑いマラソンでは体に熱を溜めずに放散することが大事です。それに順応する体を作ることは、逆に冷たい雨の中で体を冷え切らせてしまうのかもしれませんね」と。
思い出すのは1987年の福岡国際マラソンです。凍える雨の中、中山竹通さんが2時間8分台で優勝。あの頃の選手たちは野性的だったと感じます。東京マラソンのこの日、解説をした中山さんと控室でお弁当を食べながら陸上談義。中山さんは「マラソンは本当のタフネスが求められる。一夜漬けではなく365日マラソンを考えた生活をして欲しい」と熱く語りました。暑さ寒さも関係なく修行し続けた先輩の言葉には重みが感じられます。
(共同通信/2010年3月1日配信)
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