1年で見事な転身
お堀沿いの桜の蕾がほころびそうな軽快な足音。30キロ過ぎから独走になり、トップでゴールしたのは加納由理さん(セカンドウインドAC)でした。3月14日名古屋国際女子マラソンをテレビで観戦。加納さんの大きな笑顔、そして加納さんがスパートする前まで先頭でレースを引っ張った大南博美さん(トヨタ車体)は3位でゴールするや涙が止まりません。言葉はいらない位の深い感情が画面から伝わり、私は普段の解説で喋り過ぎてはいないだろうか?と心配になりました。
今回は高橋尚子さんが解説者の一人として競技場からコメント。思えば高橋さんは1年前“ありがとうラン”でずっと沿道に手を振りながら42.195キロを走りました。この1年で選手から解説者に立場が変わったわけですが、見事な転身です。この日もレース前半で選手の特徴を話しながら「31キロ過ぎの上り坂が勝負所になると思います」と見事な分析をしました。高橋さんが解説の仕事を始めた頃、私は僭越ながら「Qちゃん、あのー、やっぱり、という口癖が多いよ」なんてアドバイスをしたものです。昨秋のベルリン世界陸上ではキャスターとしてなかなか思い通りにコメント出来ずに悩んでいました。そんな中、思い通りに走れなかった選手に対して、高橋さんは放送後に「今はとっても悔しい気持ちだと思うけれど、今日の一歩がなければ次の一歩はないのよ」と励ましました。その後、そばにいた私に「増田さん、さっきは自分自身にも言ってたんです」と。そんな高橋さんを見ていると、へこんでもすぐ立ち上がり、人生の道も前へ前へひたすら前へ。そしていつも素直で謙虚。後輩ながら彼女の人柄と生きる姿勢にいつも教えられています。
(共同通信/2010年3月15日配信)
|