圧勝にも淡々
気取らない表情で讃岐平野にポコポコと並ぶ山々に囲まれた香川県立丸亀競技場。そこで6月4日から3日間にわたり日本選手権が開催されました。私は初日の女子1万mを観戦に。スタンドには白や黄色の帽子の小学生達がまるで夏の花を咲かせたよう。観客の多さにも驚きましたが、テンポの良い明るい場内アナウンスが新鮮でした。レース1時間半前、サブトラックに行くと福士加代子さん(ワコール)にばったり。「あ、今日はテレビの仕事ですか」と福士さん。私が仕事ではなくレースを観に来たことを伝えると、「ありがとうございます」とニッコリ。大体レースを直前に控えた選手達は緊張しているので、こんな風に話かけてくれることはありません。いつも福士さんの余裕と優しさに頭が下がります。
まだ陽が高い午後4時35分、気温28度と暑い中、女子1万mがスタート。早々と先頭に立ったのは福士さんです。日本記録に挑戦するハイペースでレースを先導。他の有力選手達は、暑さ故にそのハイペースは予想していなかった様子で、3千mからは福士さんの独走に。後半はペースが落ちましたが、2位以下に大差を付けての優勝でした。
「横綱相撲だったね」とレース後、福士さんに話すと、「でもタイムがねぇ〜。暑さは関係ないですよ」と納得していない表情。やはり彼女にとっては、渋井さんの持つ1万mの日本記録を破らないことには“次”に進めないのでしょう。2002年から6連覇をし、今回は3年ぶりの優勝。ずっとトップを走り続けている福士さんですが、勝った時に慢心せず、負けた時も明るい笑顔。時が流れても変わらない讃岐平野の優しい風景そのものです。
(共同通信/2010年6月7日配信)
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