名伯楽の下で再起
ゆく夏を惜しむように北海道の大地を照りつけた太陽。気温30度を超える過酷な条件の中、2010北海道マラソンは開催され、女子の優勝者は原裕美子さん(ユニバーサルエンタ−テインメント)でした。原さんはこれまで世界陸上にマラソンで2回出場した実力者。しかし、昨年4月に京セラを大森国男監督と共に退職し、その後レースから遠ざかっていました。この日は1年7か月ぶりのレースでしたが、その勝負勘に陰りはなく、32キロ付近で宮内宏子さん(京セラ)を突き放し優勝したのです。私は移動中継車の中からその姿を見て、ロンドン五輪に向けて有望な選手が帰ってきてくれた嬉しさに興奮しました。レース中、原さんは何度も何度も顔を歪め、肩に入った力を抜くために両手をダラリと下げて大きく息を吐く仕草を繰り返しました。すごく苦しそうなのにペースは落ちません。並外れた精神力の強さに驚きと感動を覚えたのです。
「私に“心が体を動かす”という走りの原点を教えてくれたのは大森さんです」と原さんは話します。京セラ退社後、暫く栃木県の実家に帰っていましたが、今年1月から小出義雄さんの下で練習するようになり、「お陰で目標がロンドン五輪に定まりました」と原さん。これから名伯楽小出さんにより、競技生活を楽しみながら世界で戦う選手になることでしょう。年齢と共に良い指導者に出会えることも原さんの人徳です。
レース翌日、朝食中の原さんは食パンに卵やハムを挟んで食べたかと思うと、次はクロワッサンにロールパン。何度も料理台とテーブルを往復します。その食欲にもびっくり。ロンドン五輪まであと2年。大物がひと回り大きくなって帰ってきました。
(共同通信/2010年8月30日配信)
|