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おしゃべり散歩道2010

小説でスポーツを体感

 眩しい太陽に向かい百日紅のピンクが一層鮮やかに見えた夏。雑誌の対談で作家の三浦しをんさんとお会いしました。赤白のストライプのTシャツに、穴のあいたジーンズ姿で現れたしをんさん。「いまどきですね」と私が言うと、「母にはみずぼらしいから捨てなさいと言われるんです」。笑った顔が無邪気な天使のよう。しをんさんの箱根駅伝を題材にした“風が強く吹いている”はベストセラーとなり、映画や舞台にもなりました。おんぼろアパートに暮らす大学生が1年弱の練習で箱根駅伝に出場するという物語。読み始めた私は「無理無理、やはり小説だ」と思ったのですが、読んでいくうちに 「うーん、あり得るかも」と納得させられるリアル感がありました。選手の心理描写が細やかで、練習や生活の様子も具体的。それにスピードが増すほどに体感できる世界の描写が実に鮮やかだったからです。「箱根駅伝を観ている人が、小説を通して少しでも選手に近づいて欲しいと考えました」と。取材期間は何と4年。選手の心理を探ろうと、スポーツ・ノンフィクションやアスリートの自伝等をたくさん読んだとのこと。大変な努力に頭が下がりました。
 そして、しをんさんは対談前に私の初小説“カゼヲキル”を読んで下さり、自然の描写が素晴らしかったとお褒めの言葉を頂きました。「児童文学なので露骨に書けなかったことも・・」と私が話すと、「例えばどんなことですか?」としをんさんの目が輝きます。「レース中、負けたくなくて、前を走る選手のユニフォームを掴んじゃったんです」と。「面白―い、そんなおいしい話をなぜ書かなかったんですか」としをんさん。スポーツ談義に花が咲いた夏の午後でした。

(共同通信/2010年9月6日配信)

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