選手を走らせる天の声
文化の日、青空の下開催された第21回東日本実業団女子駅伝は、山下佐知子監督率いる第一生命が初優勝を飾りました。黄色と黒のユニフォームが色づき始めた紅葉にアクセントをつけているかのよう。第一生命は1区の勝又美咲さんがスタートしてすぐに先頭に立ち、切れのある走りで独走に。「あなたの勝負勘は間違っていないので、いけると思ったらいきなさい」。これはスタート直前に勝又さんが山下さんに言われた言葉。その言葉を胸に走っているように移動車の中の私には見えました。私はレース前、第一生命の選手には必ず「監督に何て言われた?」と聞きます。なぜならば、選手たちはレース直前に発する山下さんの言葉を待っているからです。
昨年のベルリン世界陸上でのこと。同チームの尾崎好美さんが女子マラソンで銀メダルに輝きました。レース後、山下さんは「スタート前に、一番にならなくていいよと言っちゃたのよね」と苦笑い。マラソンで初めての大舞台を踏む尾崎さんをリラックスさせようとして言ったそうです。尾崎さんは優勝した白雪さん(中国)のスパートについたものの、残り1qであっさりと競り負けてしまいました。「優勝できるチャンスもあったに・・・、何が何でも一番になれと言ったらよかったかな」と山下さん。この話を聞き、選手がいかに監督を尊敬し、信頼しているかを感じました。
山下さんは91年の東京世界陸上銀メダリスト。日本の女子マラソンで初のメダリストです。また、女性指導者としても道を切り拓きました。チャーミングな人柄で心も骨太。そんな監督の言葉は選手にとって天の声であり、走りの原動力になるのでしょう。
(共同通信/2010年11月8日配信)
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